厩務員は、競走馬の健康や成長を日々支えるプロフェッショナルです。本記事では、厩務員の仕事内容や1日のスケジュール、やりがいと大変な点、求められる資質、他職種との違い、働く現場ごとの特徴まで徹底解説。馬に関わる仕事に興味がある方はぜひご覧ください。
厩務員(きゅうむいん)は、競馬産業を支える重要な存在です。彼らの主な役割は、競走馬の日常的なケアや健康管理、調教やレースのサポートなど多岐にわたります。厩務員は、馬がベストな状態で競馬に臨めるよう、毎日朝早くから馬房(ばぼう)の清掃や馬体の手入れ、エサやり、飲み水の管理など、きめ細やかな世話を担当します。
単なる「世話係」というイメージを持たれがちですが、実際には馬の性格や体調のわずかな変化にもいち早く気づき、適切な対応をする“馬のパートナー”ともいえるポジションです。日々の積み重ねが競走馬のパフォーマンスや安全を支えています。馬と人との信頼関係を築きながら、チームの一員として厩舎や調教師、騎手とも密に連携し、それぞれの役割を果たしていきます。
厩務員が活躍する場所は、中央競馬(JRA)や地方競馬(NAR)の競馬場、栗東・美浦トレーニングセンター(通称「トレセン」)、そして生産牧場や乗馬クラブまで多岐にわたります。特にトレセンは、日本全国の競走馬が集まり、調教やレースの準備を行うため、厩務員の数も多く、専門性の高い現場となっています。
地方競馬の場合は、競馬場やその近隣に設けられた厩舎での仕事が中心となり、担当する馬の頭数や働き方も中央とは異なります。また、牧場では仔馬の世話や繁殖に関わる業務が加わり、現場ごとに求められるスキルや1日の流れも違ってきます。どの現場においても、馬への深い愛情と責任感が厩務員には欠かせません。
競馬界において厩務員は「縁の下の力持ち」として、なくてはならない存在です。厩務員が日々積み重ねるきめ細かなケアや観察力が、馬のコンディション維持やケガの早期発見につながり、競走馬が安心してレースや調教に取り組める環境を整えています。
また、厩務員は調教師や騎手とは異なり、馬と最も長い時間を共にする職種でもあります。日々の接し方一つで馬の気持ちや体調が変わることもあるため、信頼関係の構築がとても重要です。馬を取り巻く多様な専門職の中でも、厩務員の地道な努力が競馬の“表舞台”を支えているのです。
厩務員の中心的な仕事は、馬のお世話と健康管理です。毎朝の始まりは、馬の様子を観察することから始まります。馬の食欲や歩き方、皮膚や被毛の状態を細かくチェックし、わずかな変化にも気を配ります。エサやりや飲み水の交換はもちろん、ブラッシングや蹄(ひづめ)の手入れといった馬体のケアも重要な業務のひとつです。
また、季節や天候によって馬の体調は大きく左右されるため、馬房の温度や湿度の管理にも気を使います。体温や呼吸、心拍数の確認など、獣医師と連携しながら日々の健康チェックを徹底します。馬がベストコンディションを保てるよう、厩務員は常に馬と向き合いながら生活をサポートしています。
馬が健康に過ごすためには、清潔な環境づくりが欠かせません。厩務員は毎日、馬房の敷料(しきりょう)の交換や掃き掃除、汚れた部分の除去を行い、馬房を衛生的に保ちます。馬房内の環境が悪いと、馬の健康トラブルやストレスの原因にもなるため、手間を惜しまず徹底的に管理します。
また、馬が安心して過ごせるよう、馬具や設備の点検・メンテナンスも厩務員の役割です。飼葉桶や水桶の洗浄、馬着や頭絡(とうらく)の確認など細かい部分まで気を配り、安全で快適な空間づくりを心がけます。
厩務員は調教師や騎手と連携し、馬の調教やレースの準備もサポートします。調教前には馬具の準備や装着を行い、馬を落ち着かせながら騎手や調教師に引き継ぎます。調教後は汗を拭き取ったり、体温の変化を確認しながらクールダウンを手伝います。
レース当日には、輸送中のケアや現地での装鞍(そうあん)補助、返し馬の付き添い、レース後の疲労回復ケアまで幅広い業務を担当します。馬が安心して力を発揮できるよう、どんな場面でも厩務員のきめ細やかなサポートが求められます。
厩務員の1日は、早朝から始まります。例えば、朝5時前後には出勤し、馬の健康チェックとエサやりからスタート。続いて馬房の清掃や調教の準備に取りかかります。午前中には調教サポートや馬体ケア、昼食や休憩を挟みつつ、午後は再度馬房の点検や馬の様子の観察、夕方のエサやりなどを行います。
競馬開催日や調教日によって多少スケジュールは変動しますが、馬の生活リズムに合わせて一日が流れていきます。肉体的にはハードな部分もありますが、馬の成長や健康を間近で支えることができる、大きなやりがいのある仕事です。
厩務員の仕事の大きな魅力は、馬と深く関わりながら日々成長を感じられることです。毎日接する中で、最初は警戒していた馬が心を開いてくれる瞬間や、体調管理やケアの積み重ねによって馬が健康を取り戻した時など、自分の努力が目に見える形で現れるのは、何ものにも代えがたい喜びです。
さらに、自分が担当した馬がレースで好成績を収めたり、無事にゴールした時の達成感もこの仕事ならでは。馬のコンディションを整える裏方として、その成長や活躍を一番近くで見守ることができるのは、厩務員ならではのやりがいと言えます。
馬から信頼される“家族”のような存在になれることも、この仕事の大きな魅力の一つです。
一方で、厩務員の仕事は決して楽なものではありません。まず、勤務時間が早朝から始まるため、生活リズムを整える必要があります。馬は生き物なので、天候や季節、体調によって毎日の仕事に変化があり、予測できないトラブルにも迅速に対応しなければなりません。
また、馬房の掃除や馬体の手入れなど体力仕事も多く、一年を通して体調管理や筋力が求められます。時には馬の急なケガや病気に直面し、精神的なプレッシャーを感じる場面も少なくありません。それでも、厩務員たちは馬のために地道な努力を続け、馬が元気で活躍できるよう支えています。
厩務員の仕事には、馬への深い愛情と責任感が不可欠です。日々の観察力や気配り、変化に気づく洞察力も求められます。加えて、チームの一員として調教師や騎手、他の厩務員と連携するためのコミュニケーション能力も重要です。
また、体力や持久力はもちろん、困難な状況にも前向きに取り組めるタフさや、日々地道に努力を続けられる継続力が活かされます。動物に寄り添う気持ちを持ち、自分の役割に責任を持って取り組める人にとって、厩務員はやりがいのある仕事と言えるでしょう。
競馬の現場には、さまざまな専門職が関わっていますが、厩務員、騎手、調教師はそれぞれ役割や求められる資質が異なります。
厩務員は主に馬の日常的なケアや健康管理、馬房の清掃、調教やレースのサポートといった“馬と最も長い時間を共にする存在”です。馬の細かな変化に気づく観察力や、日々の積み重ねが欠かせません。
一方、調教師は競走馬のトレーニングメニューの作成やコンディションの調整、馬の適性を見極める指導者的な立場です。馬の能力を最大限に引き出すための戦略を立て、厩舎全体を統括します。
騎手は、レース本番で馬に騎乗し、その能力を引き出す“勝負の現場”を担います。瞬時の判断力や駆け引き、身体能力が問われるポジションです。
このように、三者はそれぞれ異なる視点と責任を持ち、馬を中心にプロフェッショナルとして関わっています。
厩舎は一頭の馬だけでなく、多くの馬と人が関わる“チーム”です。厩務員は馬の最も身近な存在として、調教師や騎手、獣医師、装蹄師など多くの職種と密にコミュニケーションを取りながら仕事を進めます。
たとえば、調教師から馬の調教方針を聞き、日々の健康状態や食欲、気性の変化などを細かく報告します。また、騎手に馬の特徴や最近の様子を伝えることで、レースや調教の質が高まります。
馬の安全や健康、パフォーマンスの向上を目指して、情報共有や意見交換を重ねることで、厩舎全体が同じ目標に向かって力を合わせています。
こうしたチームワークの中で、自分の担当だけでなく周囲への気配りや助け合いの精神がとても大切です。厩務員の存在は、馬だけでなく“人の輪”も支えているといえるでしょう。
厩務員の仕事は全国どこでも共通する部分が多いものの、中央競馬(JRA)と地方競馬(NAR)では働き方や求められる能力にいくつかの違いがあります。
中央競馬の場合、厩務員になるためにはJRA競馬学校の厩務員課程を修了する必要があり、採用試験や実習など厳しい基準が設けられています。その分、研修制度や福利厚生が整っており、担当する馬の頭数も2頭程度と比較的少なめ。チームで分担しながら馬をケアする体制が取られています。
一方、地方競馬の厩務員は、各厩舎に直接雇用される形が多く、即戦力が重視されます。JRAに比べると担当馬の頭数が3~5頭と多く、一人ひとりの役割が大きくなりがちです。現場によってはベテランの経験や柔軟な対応力が求められ、職場ごとに働き方が異なる点も特徴です。
また、給与や待遇の面でもJRAとNARで差があり、中央競馬の方が平均的に高収入となる傾向があります。
牧場での厩務員は、競馬場やトレセンとはまた違った仕事の幅があります。主な役割は、仔馬や繁殖牝馬の世話、出産や育成のサポート、日々の健康管理や環境整備などです。競走馬の原石となる馬たちを、健やかに成長させるためのきめ細やかなケアが求められます。
牧場は自然環境の中での仕事が多く、天候や季節に左右される場面も多くなります。また、生まれたばかりの仔馬の命を預かる責任や、日々変化する馬たちの様子を見守る観察力が大切です。
競馬場の厩務員が「競走馬のパフォーマンス」を支えるのに対し、牧場の厩務員は「馬の成長と健やかな一生」を見守る役割を担っています。どちらの現場でも、馬への深い愛情と責任感は変わりません。
厩務員は、競馬界の縁の下の力持ちとして、馬の健康や安全、そして成長を日々支えています。馬の世話や健康管理、調教やレースのサポートなど、その仕事は多岐にわたり、体力や観察力、責任感が求められる職種です。
中央競馬、地方競馬、牧場と働く現場ごとに特徴がありますが、どの現場でも厩務員の存在が馬と人の絆を深め、競馬の感動を生み出しています。馬への深い愛情と地道な努力があってこそ、競走馬は最高のパフォーマンスを発揮できます。厩務員の仕事に少しでも興味が湧いた方は、ぜひその世界に一歩踏み出してみてください。
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