馬の安全を守り、騎手のパフォーマンスを最大限に引き出す「馬具」。その馬具を一つひとつ手作業で作り上げ、修理・調整する専門家が「馬具職人」です。競馬や乗馬の世界に欠かせない存在ですが、どうすればなれるのか、どんなスキルが必要なのかはあまり知られていません。
この記事では、馬具職人の仕事内容から、なるための具体的なルート、必要なスキル、そして活躍の場まで、馬具職人を目指すために知っておきたい情報をわかりやすく解説します。
馬具職人は、馬が安全で快適に動けるように「馬具(ばぐ)」を作る専門家です。馬具とは、馬に乗るために必要な道具のことで、例えば以下のようなものがあります。
馬具職人の仕事は、これらの馬具を革などから新しく作ることだけではありません。馬具が壊れたり、古くなったりしたときに修理したり、馬一頭一頭の体に合わせて調整(メンテナンス)したりするのも大切な仕事です。
馬具は、使われる目的によって形や機能が異なります。例えば、スピードを競う「競馬用」、障害物を飛ぶ「乗馬用」、馬が車を引く「馬車用」など、それぞれに合わせた専門的な知識と技術が求められます。馬の安全と乗る人のパフォーマンスを支える、まさに職人の仕事と言えるでしょう。
馬に関わる職人として、「装蹄師(そうていし)」という仕事を聞いたことがあるかもしれません。馬具職人と間違われることもありますが、仕事内容は全く違います。
装蹄師は、馬の「蹄(ひづめ)」を守る専門家です。人間の「爪(つめ)」に似た蹄に、「蹄鉄(ていてつ)」と呼ばれるU字型の鉄の道具を作成し、装着します。馬が走るときに蹄がすり減ったり、割れたりするのを防ぐのが目的です。
簡単に言うと、馬具職人は「馬の体全体に着ける道具(革製品が中心)」を担当し、装蹄師は「馬の足先(蹄)の保護」を担当する専門家です。
馬具職人が働く場所は、馬がいる様々な場所に関わってきます。
主な職場としては、JRA(日本中央競馬会)や地方競馬の「厩舎(きゅうしゃ)」(馬が生活する場所)に所属したり、馬具を専門に作る「馬具専門メーカー」や個人の「工房」で働いたりするケースがあります。
また、全国にある「乗馬クラブ」で、クラブに所属する馬たちの馬具を専門にメンテナンスする役割を担うこともあります。競馬の世界から一般的な乗馬まで、馬と人が関わる幅広い場所で馬具職人は活躍しています。
馬具職人になるために、「この資格が絶対に必要」という国家資格や公的な資格はありません。
ただし、資格がいらないからといって、誰でも簡単になれるわけではないのです。馬具は、馬の安全や騎手の命に直結する大切な道具。そのため、革を正確に加工する高度な技術や、馬の体の構造・動きに関する専門的な知識が求められます。
資格の有無よりも、確かな技術と知識を持つことが何より重要な「技術職」なのです。
弟子入りする一番のメリットは、親方や先輩職人のすぐそばで本物の技術を直接学べる点にあります。革をどのように選び、裁断し、縫い合わせるのか、また、壊れた馬具をどう修理し、馬に合わせて調整するのか。こうした実践的な技術を、日々の仕事を通して体で覚えることができます。
一方で、弟子入りには難しさもあります。それは、求人情報がインターネットやハローワークなどで公に出ることが非常に稀(まれ)である点です。
そのため、知り合いからの紹介(縁故)や、馬関連の学校からの推薦がきっかけになることが多いようです。あるいは、自分で直接工房を訪ねて熱意を伝え、受け入れてもらえるのを待つといった、狭き門となっています。
弟子入りが難しいなら、学校で学べないかと考えるかもしれません。しかし残念ながら、日本国内には「馬具職人科」といった専門コースを持つ学校は、非常に少ない(ほぼない)のが実情です。
ですが、馬具職人への道が完全に閉ざされているわけではありません。例えば、馬の知識(生態や解剖学)を学べる専門学校や、革細工(レザークラフト)の技術を基礎から教える専門学校で学ぶことが、弟子入りへの第一歩になる可能性があります。
学校で学ぶメリットは、馬の体のことや革工芸の基礎知識を、バラバラではなく体系的に(順序だてて)学べる点です。
また、学校が馬具の業界とつながり(コネクション)を持っている場合もあります。そうした学校では、卒業のタイミングで就職先、つまり弟子入り先として工房を紹介してもらえる可能性もゼロではありません。
競馬と聞くと「JRA競馬学校」を思い浮かべる人も多いでしょう。JRA競馬学校には、騎手になるための「騎手課程」や、馬のお世話をする「厩務員(きゅうむいん)課程」、そして先ほど紹介した「装蹄師課程」はあります。
しかし、「馬具職人」を専門に養成する課程は、現在のところ存在しません。
もちろん、厩務員や装蹄師として競馬の世界(競馬サークル)に入り、仕事の中で馬具のメンテナンスや調整に関わるケースもあります。しかし、それは馬具を専門に作る「馬具職人」とは少しキャリアが異なることを知っておくとよいでしょう。
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