競走馬の出産、成長を担う生産牧場。繁殖牝馬(母馬)と育成場に入るまでの仔馬の世話をします。サラブレッドの誕生に関わることができるという魅力的な仕事です。
生産牧場では、早く走ることに長けている馬を生み出すための工夫が日々考えられています。その歴史は300年以上も続いており、古くから馬の改良が重ねられてきました。以下では、そんな生産牧場で行われる仕事を解説します。
生産牧場で行われる仕事の一つには、牝馬の世話が挙げられます。牝馬の健康を維持して丈夫で健康な馬を産めるよう管理し、妊娠から出産までを徹底的にサポートする仕事です。
妊娠中の馬、これから種付けを行う馬、病気がちの馬、出産後でダメージを受けている馬などの状況を逐一把握し、全員で治療やケアを行います。馬は、人間と同じように繊細な生き物で、「ただ妊娠・出産をさせればいい」というものではありません。そのため、生産牧場で働く人全員が、馬の体調やメンタルの変化に気を遣う必要があるのです。
牝馬が仔馬を産んだら、その後は親子を放牧地に導き、親子の時間をつくるようにします。生まれて間もない仔馬に対しても注意は必要ですが、産後体力が弱まっている牝馬も思わぬ怪我をすることがあります。そのため、放牧地でのチェックや、帰るときの状態確認も欠かせません。
牝馬だけでなく、仔馬の世話も生産牧場における仕事の一つ。仔馬が離乳するまでの期間、愛情を持って育てていきます。仔馬が離乳したら、育成牧場に引き渡すことになります。
まったく人に慣れていない仔馬を一からお世話するのは、大変な仕事です。どの育成牧場、どの調教師のもとに送られても、きちんと言うことを聞ける馬にするために、しっかり教育をしていかなければなりません。
誰でも扱える馬になるように、生産牧場ではとくに決まったトレーナーというものを作らないことがほとんどです。朝、厩舎長の指示や自分の判断でどの馬の世話をするのか決め、また翌日には違う馬の世話をする…というケースが多いようです。
生産牧場で仔馬が過ごすのは短期間。そして、実際にレースに出馬するまでになるのは生まれてから2年ほどです。馬の成長にとって、1日も無駄にしてよい時間はないのです。生産牧場でも、基本的な教育、状態のチェック、その馬の特性などを見ていく必要があります。
生産牧場では馬とのコミュニケーションも大切ですが、人同士のコミュニケーションも非常に大切です。
先ほどもご紹介したように、生産牧場では担当の馬を持つということはあまりありません。そのため、たとえば就業後のミーティングでは、その日世話をした馬の状態を報告し、翌日に引き継ぐ必要があります。
どんな些細なことでもきちんと報告し、馬の病気や怪我を未然に防ぐことも、生産牧場における立派な仕事の一つです。
生産牧場での仕事は、特別な技術やセンスが必要なわけではありません。そのため、なりたいという気持ちがあれば、どんな人でも目指すことができるといえるでしょう。ただし、「生産牧場での仕事にとくに向いている人物像」というものはあります。以下で詳しくみていきましょう。
生産牧場での仕事に向いているのは、時に優しく、時に厳しく馬に接することができる人といえます。
馬の繊細な感情や些細な変化にも気づける細やかな気配りができる人でなければ、馬を怪我させてしまったりして、丈夫な馬に育てることはできません。
とくに、まだ何も教育を受けていない仔馬の扱いは想像以上に大変で、まず人の手に触れられることに慣れてもらう必要があります。これはかなり根気のいる作業です。毎日同じことを繰り返し、少しずつでも仔馬を成長させることができる、またその喜びを感じることができる人でなければ、つらい仕事かもしれません。
さらに、仔馬は成長するにつれ、それぞれ性格が出てきます。人間と同じように、馬にも内気な性格、やんちゃな性格などがあり、その馬ごとに対応を変えていく必要があります。悪いクセがあるならきちんと矯正してあげる厳しさもときには必要。ただ馬が好き、動物の世話が好きといっただけでは、続けていくことが難しいかもしれませんね。
生産牧場では、ただ馬のお世話をしていればよいというわけではありません。生産牧場で働く人全員で一頭一頭の馬の状態を共有、把握する必要があります。
たとえば、毎日行われる朝と就業後のミーティングでは、しっかりと馬の状態を報告しなければなりません。また、万が一馬の体調不良や怪我を発見した場合は、すぐに厩舎長に連絡、相談する必要があります。
こうした「報連相」が守れていないと、馬が思わぬ怪我をしたり、病気の発見が遅れたりといった問題が起きてしまいます。馬とだけでなく、人とも仲良く、チーム意識を持って仕事をしなければなりません。
生まれたばかりの仔馬の世話や、デリケートになっている牝馬の世話をするのは、思った以上に大変です。熱意を持って、誠心誠意をこめて馬の世話ができるという人でなければ、生産牧場で働くのは難しいといえるでしょう。
また、調教師ではないので負けず嫌いな気持ちは不要かと思われがちですが、それだと仔馬をよりいい馬に教育することはできません。昨日より今日、今日より明日と、その日担当する馬をより良い状態に導いてあげようという気持ちを持って接することも大切です。
生産牧場での仕事に就きたいという気持ちはあっても、果たして稼げるのか、福利厚生はどうなのか、といったこともやはり気になりますよね。以下では、そうした年収・待遇についてご説明します。
生産牧場スタッフの年収は、それほど高いというわけではありません。年収は200万円から500万円前後、月収は18万円程度が一般的であるようです。馬の世話をする牧場の中でも特別な知識、技術が必要ないため、どうしても低くなる傾向にあるといえます。
交通費、昼食代、家賃補助などが出ることはあります。ただ、生産牧場によっては寮の管理費用などを差し引かれることもあるため、細かい点は確認する必要があるでしょう。また、ボーナスが出ない牧場も多いようです。
夜勤があった場合は夜勤手当てが出る牧場が多く、月収に加算されていきます。
生産牧場や育成牧場でかつて勤務した経験があるという場合は、さらに月収が上がって20万円程度になることもあるようです。厩舎長にもなると月収は45万円程度になることも。勤続年数や経験などによっても、月収は大きく変わります。
生産牧場のほとんどは、寮が完備されています。朝はそれほど早起きしなくても、すぐに馬のお世話ができるようになっています。
食事は馬のお世話の合間に取ることになるので、あまりゆっくりはしていられません。そのため、寮や食堂でベストなタイミングで提供してくれるところもあります。そういったところでは、栄養バランスが考えられた食事をとることができ、ハードな毎日でも健康的に過ごすことができるでしょう。
寮ではなく社宅を完備している生産牧場もあります。この場合は家賃補助だけでなく食事補助が出ることも。家族での移住もサポートしてくれる場合があります。
雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金などのサポートが手厚い職場もあり、安心して働くことができそうです。
休日に関しては、生産牧場で働く人全員で交代となるので不定期ですが、週に1日から2日は休むことができ、夏期休暇や冬期休暇も取れるようです。
勤務時間は早朝から夕方まで。朝は早いですがその分夕方には仕事を終えることができ、毎日決まったルーティーンがあるので残業の心配もほとんどないでしょう。交代で夜勤をして馬の状態を常にチェックしなければならない場合もありますが、翌日は休みをもらえるなどの工夫が行われているようです。
馬の生産牧場のほとんどは、北海道の日高地方に集中しています。一口に生産牧場といっても、家族だけで経営する小規模な牧場から、有名馬を続々と送り出す大規模な企業まで実にさまざまです。
ここでは、ごく標準的な生産牧場の1日を紹介しましょう。
夜間放牧をしている1歳馬の集牧から仕事が始まります。厩舎に戻ると、朝のミーティング。馬長から、その日の作業の指示を受けます。
ミーティングが終ると、放牧です。夜間放牧の体力がついていない一歳馬や生まれたばかりの馬、母馬を放牧地に連れていきます。馬をひきながら、歩く様子や息遣いを観察し、異常がないかをチェックします。
夜間放牧をしていた馬たちが熱を出していないか、怪我をしていないか、細かく調べます。
また、寝転ぶことが多いため、身体の表面や蹄鉄の裏についた泥や草をきれいにふき取りとってやります。こうした作業を毎日体験することにより、馬は人間に触れられることを嫌がらないようになります。
午前中のうちに、放牧に出た馬の場房の掃除もしておきます。
種付けの当番になると、種付けにつれていく牝馬の手入れに取り掛かります。生まれてはじめての馬運車、数多くの知らない馬と接する環境…種付は、実にいろいろなことを教える機会となります。
馴致(じゅんち)といって、上場馬(セリに出す馬)の引き運動を行ないます。正しい姿勢で立てるように、まっすぐ歩くことができるようにすることで、セリの際の印象がよくなります。
ふたたび集牧と放牧。放牧していた馬を厩舎に戻し、夜間放牧をする馬を外へ。放牧中に怪我をしたりしていないか、綿密にチェックします。1日の最後は、全員で顔を合わせて、その日の報告を行ない、翌日の予定を確認します。一般的には、17時頃までには、ひととおりの仕事が終ります。
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